3日前の晩ご飯
かっこよく言うと『軌跡』です。 ふつうに言うと『日記』です。 要約して言うと『牧場の藁屑』です。
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――あの日、僕の世界は真っ赤に染まって、そして終わった。
交通事故だったのだろう。最期の記憶は視界いっぱいのトラックだった。走馬燈を見る暇もなく、僕は死んだ。本当に呆気なく。世界は僕の死なんて気にも止めずに時間を進め、僕が死んでから、もうすぐ三年が経とうとしていた。
「僕は沙希を愛してるんだ」
少し前に老衰で死んだらしい犬に話しかける。恋人に未練を残して成仏できない、なんて。生きていた頃の僕なら格好悪いと思うだろう。でも、今の僕はどうだ?沙希が気がかりで成仏できないくせに、肝心の沙希に会いにいく勇気も側にいる勇気もない。自分でも、すごく格好悪いと思う。
「だけどね、僕は沙希を愛してるんだ」
もう一度、今度は独り言のように呟いた。
死んですぐの頃は沙希に側に居た。でも、泣いている沙希を見ているだけなのが辛くて、「ここにいるよ」と叫んでも届かないのが苦しくて。僕は沙希の側を離れた。死に場所の近くでウロウロして、たまに新入りに話しかけては沙希の話をして。新入りが成仏するのを無感動に見送ってきた。沙希に会わなくなって、もうどれぐらいが経つのか。時間の感覚を失った僕には、その時間が長いのか短いのかも分からない。
クゥーンと、犬は無意味に鳴いて、天に昇っていった。
日曜日だったのだと思う。街には人が溢れかえっていたから。僕は散歩に出かけることにした。街中をフヨフヨと漂う。たまに背の高い人が、頭のてっぺんを僕のつま先にぶつけながら歩いていく。
「会いたいな」
完全に独り言だった。まわりはガヤガヤと煩いくらいなのに、誰にも聞こえないはずの声は、僕の耳には妙に響いた。
多分、その声に気づいたのは偶然じゃなくて必然。僕が沙希の声を聞き逃すはずがないから。沙希の声は真下から聞こえてきて、見下ろすと本当さに沙希が居た。
「沙希っ」
嬉しくなって声を上げて、その後に気づいた。沙希の横に立って、沙希と腕を組んで歩いている男の存在。
「・・・誰?」
本当は知ってた。認めたくなかっただけだ。沙希が男と歩いているのを見るのはこれが初めてじゃない。でも、見かける度に気づいてないふりをして、見てないふりをした。だけど、本当は知ってたんだ。
沙希が僕じゃない男と同棲を始めたこと。
気づいたら二人を追いかけていた。映画を見て、喫茶店で昼食を食べて、ウィンドウショッピングをして、ゲームセンターでプリクラを撮っていた。僕と沙希のデートコースと一緒だった。
二人が見ていた映画は、僕と沙希がよく見に来たシリーズで、主演俳優が沙希のお気に入りだった。僕が死んだ日、沙希と見ようと約束していたのはシリーズの四番目、二人が見たのは六番目だった。その数字に、僕と沙希の時間の差を見せられた気がした。
二人が住んでいるらしいアパートの部屋は、いかにも沙希好みな雰囲気だった。エプロンをして、鼻歌を歌いながら夕飯を作る沙希。扉一枚隔てた隣で、バラエティーを見ながら笑っている男。僕が沙希と望んだ未来が、そこにあった。当たり前の顔をして、僕の望んだ場所で笑っている男がいた。
それでも、僕は沙希を愛してるんだ。
どんなに辛くても、僕は沙希を愛してるんだ。
愛されてると思ってた。沙希は僕の抜け殻に縋って、声を枯らして泣いていたから。僕の時間はそこで止まってるんだ。死んだときのまま、沙希が僕を愛していた時のまま、そこから先には進めない。なのに、沙希はどんどん先に行く。僕を置いて、知らない男と、僕が決して辿り着くことのない未来へと進んでいく。
僕は力一杯叫んだ。沙希に向かって、「僕を見て」と、泣き叫んだ。なのに沙希はちっとも気づかないで、「ごはん出来たよ」と言いながら僕の体を通り過ぎていく。左手の薬指に光る指輪に、僕は嫌でも自覚した。
僕は、もう死んでるんだ。
事故に遭ってから二年十一ヶ月と五日、僕は光の泡になって消えていった。
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